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古典ガール-高校古典の品詞分解と現代語訳-

高校古典の品詞分解と現代語訳の最強決定版です。これで定期試験やノート作り対策もばっちり。LINEで友達に広げて、カフェでワイワイ勉強会。

長恨歌 現代語訳

長恨歌

漢の皇帝は女を大いに好まれて国を傾けるほどの美女を得たいものだと思われた。

世を治めて多くの年月を経て求められたけれど得ることはできないでいた。

そのころ、楊氏の家に娘がいた。ようやく大人になったばかりで、

奥の部屋で大切に養われていたものだから、人は誰も知らなかった。

しかし生まれつきの美しさがそのまま捨てておかれるわけはなく、

ある日、選ばれて、めでたく天子さまのお側に仕えることになった。

ひとみを動かしてかすかに笑うと、なまめかしさが満ちあふれて、

皇后の宮殿にいる美しく化粧した女たちはみすぼらしく見えた。

驪山華清宮の温泉で入浴のお許しをいただいたのは、春まだ寒いころのこと。

温泉の温かい水が滑らかに、白く柔らかく潤いのある女の肌に注がれる。

腰元が体を支えて助け起こすとなまめかしくて体から力が抜けたよう、

これが初めて天子の寵愛を受けられた時である。

雲のように豊かな髪、花のように華麗な顔、歩けば音を立てて揺れる黄金に輝く髪飾り。

はすの花の模様のとばりの中は暖かく、その中で春の一夜を過ごすのである。

春の夜はあまりにも短く、日が高くなってから起きる。

この日から、天子は早朝からのまつりごとをなさらなくなった。

天子のお気に入るようにして宴にはべり、四六時中暇はなく、

春は春の遊びのお供をし夜は天子の夜を一人占めにする。

後宮の美女は三千人、

その三千人分の天子の寵愛を一身に受けていた。

黄金の御殿では完璧に化粧して、あでやかに夜のおつとめをし、

華麗な楼閣では酒宴が終わると、陶然と酒に酔う姿は春の雰囲気に調和していた。

姉妹兄弟がみなそれぞれ諸侯に取り立てられ、

ああ、まことすばらしく、その一門はまばゆい光に輝いていた。

そこで、天下の父母の心に、

男を生むより女を生んだほうがよいという思いを抱かせた。

驪山の華清宮、その高いところははるかな青雲の中に入るほどで、

仙人の演奏するような音楽が風に乗って、あちらでもこちらでも、あらゆるところから聞こえてくる。

テンポの遅い歌、ゆったりとした舞に合わせ、管弦はゆるやかに演奏されて、

一日中、天子は見飽きることはなかった。

突然、漁陽の陣太鼓の音が大地を震動させて至り、

霓裳羽衣の曲を打ち砕いた。

天子の居城に戦乱の烽火と砂塵が生じ、

天子の軍は西南に、蜀の成都を目ざして逃走した。

かわせみの旗はゆらゆら揺れて天子の軍は進んでは、また止まり、

都の門から西に百里のところで停止した。

天子の軍は出発しようとせず、どうすることもできない、

美しい曲線を描く眉の女は天子の馬前で死んだ。

螺鈿の花の首飾りは地に捨てられたまま誰も拾う者がいない、

かわせみの羽の髪飾りも、金製の雀のかんざしも、玉製のこうがいも散らばったまま。

天子は顔を両手で覆ったままで(女を)救うことができず、

振り向いて見た顔には、悲しみのあまり涙と血が入りまじって流れていた。

黄色い砂塵が周囲に舞い上がり風はもの寂しげに吹いている、

雲に入る蜀の桟道はうねうねと続いて剣閣山を登っていった。

峨嵋山のふもとに、行き交う人の姿はほとんどなく、

天子の御(み)旗(はた)に輝きはなく、太陽の光までが薄れていた。

蜀の川の水は緑に澄み蜀の山は青々と、

天子は朝から晩まで亡き女への思いを募らせている。

仮の宮殿で月を見れば、その白い色は心の痛みを増し、

夜の雨に鈴の音を聞けば、その音は人のはらわたを断ち切るような、悲しい音として耳に響く。

時局が転じて天子の車を都に帰すことになり、

馬嵬に至ると躊躇して、そのまま立ち去ることができない。

馬嵬の坂のところ、あの泥土の中に、

美しい人はなく、ただその人の死んだ場所だけがむなしく残されているばかりである。

天子と臣下は互いに顔を見合わせて、誰もみな涙を流して衣の袖をぬらし、

東にある都の門を望み馬の歩みに身を委ねて帰還した。

帰って来ると池も庭もみな昔のまま、

太液池のはすの花、そして未央宮の柳ももとのままである。

はすの花はあの女の顔に似て、柳の葉はあの女の眉に似ている、そのようなものを前にしてどうして涙を流さずにいられよう。

春の風に桃や李が花を咲かせる夜、

秋の雨に青桐が葉を落とすとき、その悲しみはますます募る。

幽閉された西宮、その南の庭には秋の草がはびこり、

宮殿の階段に落ち葉が散り敷いて、その紅葉は掃き取られることもない。

かつて梨園にいた歌舞芸人たちは白髪がひときわ目立つようになり、

皇后の部屋を取り仕切る女官たちの若々しい美しさも老いている。

夜の宮殿に蛍が飛ぶのを見ると憂愁は深まり、

一つのともしびの芯を切り尽くし燃え尽きても眠ることができない。

なかなか鳴らない時報に、初めて秋の夜の長いことが身にしみて感じられ、

きらきらと輝く天の川を眺めて、夜が明けてくる。

おしどりの屋根瓦は冷たくて、霜が重く降り、

かわせみのふとんは冷ややかに寒く、誰と共にすることができるのか、あの女はもういない。

はるかに遠く生と死とに分け隔てられて、いくつもの年を経たが、

あの女の魂は一度として、その夢に現れることはない。

臨圍の道士が、都に来ていて、

強い精神力で魂を招き寄せることができるという。

夜も眠れず寝返りばかりする天子の心に感じたので、

道士は、そこで方士に女の魂を丁寧に探し求めさせることにした。

方士は大空を推し開き大気を操り稲妻のように駆けて、

天上に昇り地下に入りあまねく探し求める。

上は青空の果てまで下はよみの国まで捜し尽くしたが、

どちらも際限なくただひたすら広いばかりで、女の魂はどこにも見えない。

そのとき突然、海に仙人の住む山がある、

その山は何もない遠くぼんやりとかすんだところにあるのだ、ということを聞いた。

その楼閣は透明な美しさに輝き、五色の雲がわき起こり、

その中にはしとやかで美しい仙女が多くいる。

その中に一人、玉真と呼ばれる仙女がいて、

雪のような白い肌、花のような美しい目鼻立ち、ほとんどあの女と認めて相違なかろうと思われる。

黄金の宮殿の西の御殿に至り玉で飾られた扉をたたき、

応接に来た侍女の小玉に伝言して腰元の双成に来訪を知らせる。

漢の天子の使者と申す者が参りましたと聞いて、

美しいとばりの中で仙女ははっと驚き夢から覚めた。

上着を取り、枕を推して起き上がり、部屋の中を行きつ戻りつし、

やがて真珠のすだれと銀の壯風が次から次と開かれる。

雲のように豊かな髪は半ば傾き、今眠りから覚めたばかり、

美しい飾りの冠も整えず、慌ただしく座敷から下りて来る。

風が仙女の衣のたもとを吹き上げてひらひらとひるがえり、

あたかもあの霓裳羽衣の舞のようである。

美しい顔は寂しげで、涙がとめどなく流れ、

ひと枝の梨の花が春の雨にぬれているような風情である。

深情を胸に、ひとみを凝らして天子へのご挨拶を申し述べる、

「お別れしてからは、あなたさまの声と姿は、どちらも遠くぼんやりしてしまいました。

昭陽殿でいただいたご寵愛は絶ち切られ、

呰咬宮で長い月日を過ごしてまいりました。

頭を動かして下の人間の住む世界を望み見ても、

長安は見えず、ただ塵埃と雲霧を見るばかりでございます。

ただ思い出の品によってわたくしの深情を表すしかありません、

螺鈿の小箱と金のかんざしを預けて持ち帰らせることにいたしましょう。

かんざしは二股の一方を、箱は蓋の一方を、わたくしの手元に残します。

かんざしは黄金を引きちぎり、箱は螺鈿の模様を分けましょう。

ただ、わたくしたちの心を、この金や螺鈿のように堅くすることができさえすれば、

天上と人間世界とに別れていても、必ず再会することができるでしょう。」と。

別れを前にして、丁寧にもう一度ことづけ、

その言葉の中には二人しか知らない誓いが含まれていた。

「七月七日、長生殿でのこと、

真夜中に人が誰もいなくなって、二人ひそかに語り合ったとき、

『天上にあっては翼を並べて飛ぶ鳥となり、

地上にあっては連なる枝となりましょう。』と誓い合いましたね。」と。

天と地は永遠に存在するとされているが、いつかなくなる時があるが、

この恨みはどこまでもいつまでも絶えず続いて、なくなるときはないだろう。

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